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専門医が解説:夏の不調「夏バテ」を撃退する7つの生活習慣

2025年8月20日

うだるような暑さが続く日本の夏。「なんだか体がだるい」「食欲がわかない」「夜、よく眠れない」といった不調を感じていませんか?それは、多くの方が経験する「夏バテ」のサインかもしれません。

夏バテは、正式な病名ではありませんが、夏の高温多湿な環境に体がうまく適応できずに起こる、さまざまな症状の総称です 。放置すると、体力の低下や免疫力の低下を招き、夏風邪や熱中症のリスクを高めることもあります 。

しかし、ご安心ください。夏バテは、日々の生活習慣を見直すことで、十分に予防・改善することが可能です。

まずは、取り組むべきポイントをまとめたチェックリストから始めましょう。

 

夏バテ予防の第一歩:今日から始める7つのチェックリスト

 

忙しい方でもすぐに実践できるよう、夏バテ対策の要点を7つの項目に絞りました。まずはこのリストを確認し、ご自身の生活習慣と照らし合わせてみてください。

  1. 栄養バランスの取れた3度の食事を徹底する そうめんなどの炭水化物だけでなく、毎食、肉・魚・大豆製品などのタンパク質と、ビタミン豊富な野菜を意識して摂りましょう 。

  2. 「喉が渇く前」に、こまめに水分補給する 1日1.5〜2.0リットルを目安に、水やお茶を計画的に飲みましょう。特に起床時、入浴前後、就寝前は忘れずに 。

  3. 室内外の温度差を5℃以内に保ち、自律神経をいたわる エアコンの設定温度は26〜28℃を目安に。冷たい風が直接体に当たらないよう工夫し、自律神経への負担を減らしましょう 。

  4. 「温度」と「湿度」を制して、質の高い睡眠を確保する 快適な寝室環境は、温度26〜28℃、湿度60%以下が理想です。必要であれば、朝までエアコンをつけたままにしましょう 。

  5. 涼しい時間帯に軽い運動を習慣にする 早朝や夕方などにウォーキングやストレッチを取り入れ、暑さに負けない体力をつけ、体温調節機能を整えましょう 。

  6. 就寝90分前の入浴で、自然な眠りを誘う 38〜40℃のぬるめのお湯に浸かることで、体の深部体温がスムーズに下がり、質の高い睡眠につながります 。

  7. 体のサインを見逃さず、不調が続けば専門医に相談する だるさや食欲不振が長引く場合は、自己判断で済ませず、かかりつけ医に相談しましょう。夏バテが、他の病気のサインである可能性もあります 。

 

なぜ起こる?専門医が紐解く「夏バテ」のメカニズム

 

夏バテの症状は多岐にわたりますが、その根本には共通した原因が潜んでいます。それは、私たちの体を24時間体制でコントロールしている「自律神経」の機能低下です。

 

中核にある問題:自律神経の「疲弊」

 

自律神経は、私たちの意思とは関係なく、心臓の動き、呼吸、消化、体温調節など、生命維持に不可欠な機能を自動的にコントロールしている神経系です 。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の2種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取りながら働いています 。

夏の過酷な環境は、この自律神経のバランスを大きく揺さぶります。 例えば、気温35℃の屋外から、エアコンで25℃に冷えた室内へ移動する場面を想像してみてください。

  • 屋外(高温環境):体は体内にこもった熱を逃がすため、交感神経の指令により血管を広げ、汗をたくさんかきます(熱の放出モード) 。

  • 室内(低温環境):今度は体温を逃がさないように、血管を収縮させ、汗を止めます(熱の保持モード) 。

夏場は、このような「熱の放出」と「熱の保持」という、いわばアクセルとブレーキを同時に踏むような、全く逆の指令(真逆の仕事)が日に何度も繰り返されます 。この急激な変化に対応するため、自律神経は絶えず働き続け、次第に疲弊してしまいます。

この自律神経の「疲弊」こそが、夏バテの根本原因です。司令塔である自律神経が疲れてしまうと、その管理下にある全身の機能に乱れが生じます。これが、胃腸の不調(食欲不振)、全身の倦怠感、睡眠障害といった、夏バテ特有のさまざまな症状を引き起こすのです 。

 

夏バテを増幅させる負のスパイラル

 

自律神経の疲弊をきっかけに、体はさらに不調を招く悪循環に陥ります。

  • 水分とミネラルの不足:発汗によって水分だけでなく、ナトリウムやカリウムといった体の機能を正常に保つためのミネラル(電解質)も失われます。これにより、脱水症状や筋肉のけいれん、さらなる疲労感が生じやすくなります 。

  • 栄養不足:自律神経の乱れは、胃腸の働きを直接的に低下させ、食欲不振を引き起こします 。その結果、エネルギー源となる栄養素、特に体を動かすために不可欠なビタミンやタンパク質が不足し、ますますバテやすい状態になります 。

  • 睡眠の質の低下:熱帯夜による寝苦しさは、質の高い睡眠を妨げます 。睡眠は、疲弊した自律神経を含む体全体の機能を修復・回復させるための最も重要な時間です。この時間が十分に確保できないことで、疲労が蓄積し、翌日の不調へとつながるのです 。

このように、夏バテは「自律神経の疲弊」を起点として、「水分・ミネラル不足」「栄養不足」「睡眠不足」が相互に影響し合い、負のスパイラルを生み出すことで、症状が深刻化していくのです。

 

夏バテ対策の要:攻めの「栄養摂取」と守りの「水分補給」

夏バテのメカニズムを理解した上で、最も重要となる対策が「食事」と「水分補給」です。体を内側から支え、暑さに負けないコンディションを整えましょう。

 

夏を乗り切るための必須栄養素

 

夏の体は、通常よりも多くのエネルギーと栄養素を消耗しています。特に意識して摂取したい栄養素とその働き、多く含まれる食品をまとめました。日々の食事の参考にしてください。

 

栄養素 主な役割 多く含む食品
ビタミンB1 糖質をエネルギーに変える「疲労回復のビタミン」。不足は倦怠感の原因に。

豚肉、うなぎ、玄米、大豆、枝豆

タンパク質 筋肉や臓器の材料。免疫力とスタミナの維持に不可欠。

肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品

ビタミンC 暑さによるストレスへの抵抗力を高める。抗酸化作用も。

ピーマン、ブロッコリー、キウイ、トマト

クエン酸 疲労物質の分解を助け、回復を促進。食欲増進効果も。

梅干し、レモンなどの柑橘類、酢

ミネラル 汗で失われる電解質。体内の水分バランスや神経機能を調整。

カリウム: スイカ, トマト / マグネシウム: 海藻類, 大豆製品

これらの栄養素をバランス良く摂ることが、夏バテ予防の基本です。旬の夏野菜は、ビタミンやミネラルが豊富で、体の熱を逃がす働きもあるため、積極的に食卓に取り入れましょう 。

 

食欲がない時でもできる食事の工夫

 

「栄養が大切なのは分かるけれど、暑くて食欲がわかない」という方も多いでしょう。そんな時こそ、食事の工夫が重要になります。

 

「そうめんだけ」の食事に潜む落とし穴

 

夏バテで食欲がない時、のどごしの良いそうめんや冷やしうどんだけで食事を済ませてしまいがちです。しかし、これが夏バテを悪化させる一因になり得ます。炭水化物(糖質)がエネルギーに変換される際には、ビタミンB1が必須です 。そうめんだけの食事では、ビタミンB1が不足したまま大量の糖質を摂取することになり、体内の貴重なビタミンB1を消耗してしまいます。結果としてエネルギーがうまく作れず、かえって疲労感を増大させてしまうのです 。

そうめんを食べる際は、必ず豚肉や卵、ネギやミョウガなどの薬味、わかめなどをトッピングし、「主食・主菜・副菜」が揃ったバランスの良い食事を心がけましょう 。

 

食欲を刺激する5つのヒント

 

  1. 酸味を活用する:酢の物やレモン、梅干しなどの酸味は、唾液や胃液の分泌を促し、食欲を増進させます 。

  2. 香辛料や香味野菜を取り入れる:生姜、ニンニク、ネギ、シソ、ミョウガなどは、食欲を刺激するだけでなく、ビタミンB1の吸収を高めるアリシンなどの成分を含んでいます 。豚肉と玉ねぎの生姜焼きなどは、理にかなった組み合わせです 。

  3. 調理法を工夫する:ビタミンB群やビタミンCは水に溶けやすく熱に弱い性質があります。生で食べられるものは生で、加熱する場合は短時間で済ませる、あるいはスープや味噌汁のように汁ごといただける調理法がおすすめです 。

  4. 料理の温度に変化をつける:冷たいものばかりでなく、時には熱々のスープやあんかけなど、温かい料理を取り入れることで胃腸の働きが活発になり、食欲が出やすくなります 。

  5. 少量ずつ、回数を分けて食べる:一度にたくさん食べられない場合は、食事の回数を増やして、一回あたりの量を減らすのも有効です。消化の負担が軽くなり、効率よく栄養を吸収できます 。

 

命を守る、夏の水分補給術

 

夏バテ対策において、栄養摂取と並んで重要なのが「水分補給」です。これは単に水を飲むということだけでなく、いつ、何を、どのように飲むかという「技術」が求められます。

 

水分補給の基本ルール

 

  • タイミング:「喉が渇いた」と感じた時には、すでに体は水分不足の状態にあります 。そうなる前に、計画的に水分を摂ることが重要です。

    起床時、朝食時、10時、昼食時、15時、夕食時、入浴前後、就寝前など、時間を決めてコップ1杯(約200mL)の水を飲む習慣をつけましょう 。

  • 飲み方:一度にがぶ飲みすると、体に吸収されにくく、胃腸に負担をかけます。コップ1杯程度の量を、こまめに飲むのが効果的です 。

  • 温度:冷たすぎる飲み物は胃腸の機能を低下させ、夏バテを悪化させる原因になります 。常温か、少し温かい程度の飲み物が体に優しく、吸収もスムーズです 。

 

「日常の水分補給」と「汗をかいた時の水分補給」を使い分ける

 

何を飲むかは、状況によって使い分ける必要があります。

  • 日常の水分補給:普段の生活では、またはミネラルが豊富な麦茶が最適です。麦茶はノンカフェインなので、いつでも安心して飲むことができます 。

  • 大量に汗をかいた時:運動や屋外での作業で大量に汗をかいた場合は、水分と同時に塩分(ナトリウム)などのミネラルも失われています。このような時には、水分の吸収が速く、失われた電解質を効率的に補給できるスポーツドリンク経口補水液が適しています 。

注意したいのは、日常的な水分補給としてスポーツドリンクやジュースを多用することです。これらに含まれる糖分は、血糖値の急激な上昇と下降を引き起こし、かえって疲労感を招くことがあります 。また、コーヒーや緑茶、アルコール飲料は利尿作用があるため、飲んだ量以上に水分が排出されてしまい、水分補給にはなりません 。

 

体を休める環境づくり:自律神経を整える「室温」と「睡眠」

 

日中の活動で疲弊した自律神経を回復させるためには、体をしっかりと休ませる環境を整えることが不可欠です。特に「室温管理」と「睡眠の質」が鍵を握ります。

 

エアコンとの賢い付き合い方

 

夏の体調管理にエアコンは欠かせませんが、使い方を間違えると自律神経の乱れを助長してしまいます。以下のポイントを押さえ、快適な室内環境を維持しましょう。

  • 温度差は5℃以内:自律神経が混乱しないよう、屋外との温度差は5℃以内が理想とされています 。外が33℃なら室内は28℃、というように調整しましょう。

  • 設定温度は26〜28℃:多くの人が快適に過ごせる室温は26〜28℃です 。寒すぎると感じさせない温度設定が、自律神経への負担を軽減します。

  • 湿度を60%以下に保つ:湿度が高いと汗が蒸発しにくく、体温調節がうまくいきません。これが寝苦しさや不快感の原因になります。エアコンの除湿(ドライ)機能を活用し、湿度を60%以下に保つことを意識しましょう 。

  • 風を直接当てない:冷たい風が体に直接当たり続けると、体が冷えすぎて血行が悪くなり、だるさの原因になります。風向きを調整したり、カーディガンやひざ掛けを利用したりして、体を冷やしすぎない工夫をしましょう 。

 

夏の夜の質を高める、究極の睡眠戦略

睡眠は、心身の疲労を回復させるための最も重要な時間です。特に、眠り始めの深い睡眠中に、体の修復を促す成長ホルモンが分泌されます 。夏の寝苦しさに打ち勝ち、質の高い睡眠を確保するための戦略を紹介します。

 

科学的根拠に基づく「就寝90分前の入浴」

 

夏はシャワーで済ませがちですが、質の良い睡眠のためには、ぜひ湯船に浸かる習慣を取り入れてください。人は、脳や内臓の温度である「深部体温」が下がる過程で、自然な眠気を感じるようにできています 。

就寝の90分〜2時間前に、38〜40℃のぬるめのお湯に10〜20分浸かると、一時的に深部体温が上がります。その後、体が元の体温に戻ろうとして熱を放散し、深部体温が急降下します。この温度の大きな落差が、強力な入眠スイッチとなるのです 。これは、単なるリラックス効果だけでなく、体温調節という生理的なメカニズムに基づいた、非常に効果的な入眠儀式です。

 

エアコンは「朝までつけっぱなし」が正解

 

電気代を気にして就寝後にエアコンが切れるようにタイマーを設定する方もいますが、これは睡眠の質を考えると逆効果です。夜中にエアコンが切れると室温が上昇し、寝苦しさで目が覚めたり、眠りが浅くなったりしてしまいます 。

室温が28℃を超えると、睡眠の質が低下するだけでなく、夜間熱中症のリスクも高まります 。設定温度を26〜28℃程度の快適な温度に保ち、朝までつけっぱなしにする方が、結果的に安定した深い睡眠を確保できます 。

 

睡眠環境を最適化する

 

  • 寝具の工夫:睡眠中の汗をしっかり吸収し、湿気を逃がす素材のパジャマ(綿やシルク)や寝具(麻など)を選びましょう 。理想的な布団の中の環境(寝床内気象)は、温度33℃前後、湿度50%前後とされています 。

  • 光のコントロール:朝起きたら太陽の光を浴びて、体内時計をリセットします。逆に、夜は寝る1時間前から部屋の照明を暗めにし、スマートフォンなどのブルーライトを避けることで、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌を助けます 。

 

負けない体をつくる:夏バテ予防の運動習慣

 

「夏バテで疲れているのに運動なんて…」と思うかもしれません。しかし、適度な運動は、夏バテしにくい体をつくるための重要な要素です。

運動には、体力をつけ、食欲を増進させ、自律神経の働きを整え、質の良い睡眠を促すなど、多くのメリットがあります 。ここで言う運動とは、激しいトレーニングのことではありません。

  • 運動の種類:ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチ、ラジオ体操などの有酸素運動がおすすめです 。

  • 運動の強度:「ニコニコペース」、つまり、人と会話をしながらでも続けられるくらいの楽な強度が最適です 。軽く汗ばむ程度を目安にしましょう。

  • 時間と頻度:1回30分の運動をまとめて行うだけでなく、10分を3回に分けても効果は同じです 。無理なく、継続することが最も重要です。

  • タイミング:熱中症を避けるため、日中の暑い時間帯は避け、比較的涼しい早朝や夕方に行いましょう 。

日常生活の中で、一駅手前で降りて歩く、エスカレーターを階段にするなど、少しの工夫でも十分な運動になります 。運動習慣を身につけることで、体温調節機能が向上し、夏の厳しい環境変化にも対応しやすい、 resilient な体をつくることができます。

 

まとめ:セルフケアで改善しない場合は当院へご相談ください

 

夏バテは、特別な病気ではなく、誰にでも起こりうる夏の不調です。しかし、その背後には、自律神経の疲弊という、体の根幹に関わる問題が潜んでいます。

今回ご紹介した**「バランスの取れた食事」「賢い水分補給」「快適な環境づくり」「質の高い睡眠」「適度な運動」**という5つの柱を生活に取り入れることで、夏バテの多くは予防・改善が期待できます。これらは、夏だけでなく、一年を通して健康を維持するための基本でもあります。

ただし、これらのセルフケアを試みても、以下のような症状が続く場合は注意が必要です。

  • 強い倦怠感が2週間以上続く

  • めまいや立ちくらみが頻繁に起こる

  • 食欲不振で体重が減少してきた

  • 頭痛や吐き気がある

これらの症状は、夏バテだけでなく、貧血や甲状腺の病気、あるいは他の内科的な疾患が隠れているサインかもしれません 。また、夏バテの状態は熱中症に移行しやすい危険な状態でもあります 。

皆様の健康は、私たちにとって最も大切なことです。もし、ご自身の症状に不安を感じたり、セルフケアだけでは改善が見られなかったりする場合には、決して我慢せず、大庭クリニックまでお気軽にご相談ください。医師が詳しくお話を伺い、適切な診断と、お一人おひとりに合わせた治療計画をご提案いたします。

正しい知識と対策で、今年の夏を元気に、そして快適に乗り切りましょう。